河野 礼子 教授・日吉自然科学部門

自然人類学、人類進化学

自然人類学は、自然の一部としてのヒト、生物の一種としてのヒトについて、進化や適応、構造や機能、成長や変異など、生物学的な視点で知ろうとする学問分野です。私自身は、骨や歯の形を調べる形態人類学を専門としています。とくにX線CTなどの断層撮影技術により対象の3次元形状を連続断面化してデジタル化する、という手法を比較的早い時期から取り入れて、現生のヒトや類人猿、そしてそれらの化石祖先について、大臼歯の形状を分析してきました。また、3次元デジタル分析の手法を応用して、ミャンマーや中国の類人猿化石や、インドネシアの原人化石、日本の旧石器時代人骨など、幅広い時代、進化段階の資料を対象とした共同研究に参加しています。

石垣島の旧石器時代人骨の研究

近年はとくに、石垣島の白保竿根田原洞穴遺跡で発見された20個体近い旧石器時代人骨の研究に力を入れています。白保遺跡では比較的保存のよい頭の骨が4個体分も見つかっており、私はこれらの頭骨をデジタル復元するべく研究に加わりました。そして白保4号個体の頭骨のデジタル復元と顔貌の復元(復顔)などを進めると同時に、現地での発掘調査にも参加しました。現在では研究全体に関わっており、科研費・基盤研究(B)「石垣島・白保竿根田原洞穴遺跡から出土した更新世人骨の骨形態学的研究」(2018~2021年度)、基盤研究(C)「四肢体幹骨形態からみた白保人」(2022~2024年度)の代表を務めています。

学内でも2022年度から「次世代研究プロジェクト推進プログラム」に採択され、「旧石器時代人の心・顔・体にせまる」とのタイトルで研究を進めています。この研究プロジェクトでは、白保人骨の表面に遺る傷痕の分析などを通じて当時の葬送方法を明らかにすることで旧石器時代人の「心」にせまり、頭骨の復元と復顔を進めることで「顔」にせまり、全身のプロポーションなどを復元することで「体」にせまろうとしています。

民族学考古学専攻の自然人類学

文学部の研究や教育はおもに人間の営みを対象としますが、自然人類学では基本的に人間そのものを対象としています。遺跡から見つかる人骨資料を主な対象とする自然人類学に対して、同じ遺跡から出土した遺物から人間の営みを考える考古学はお隣さんのような存在です。「モノ」を中心に歴史や文化を探求する民族学考古学専攻に対して、自然人類学はその「モノ」の作り手や使い手について考えることで歴史や文化を知ろうとするということで、相対する関係とも言えます。そこで私は、作り出されたものとその担い手との間を結ぶような思考が可能な人材の輩出を目指して、自然人類学の立場から民族学考古学専攻の教育にも参加し、「人類学概論I/II」の講義や研究会(ゼミ)を担当しています。

これまでにゼミで取り組まれた卒論テーマには以下のようなものがあります(兼ゼミ生を含みます)。大半は人骨に関連する研究ですが、異なる路線の研究事例もあります。

  • 江戸時代人における側頭筋付着部形態の評価とその応用
  • 江戸時代人骨から見る骨梅毒
  • 関東近世女性人骨における耳状面前溝発達度
  • 近世人骨における四肢骨形態評価法の検討
  • 江戸市中民における距骨及び脛骨の「蹲踞面」
  • 江戸時代人骨における第三大臼歯の萌出状況と下顎骨形態の関係について
  • 北海道を中心とするラッコの出土状況 について
  • 高等学校において人骨標本を価値ある教材として活用する方法の考察
  • 日中両国の間の徐福の東渡伝説に関する伝承と研究
  • 木床義歯と埋葬施設の関係
  • 白保竿根田原洞穴遺跡出土人骨に観察される傷跡について