志村 真幸 准教授(有期)

南方熊楠研究・民俗学・科学史

南方熊楠という生物学者、民俗学者を専門に研究してきました。和歌山県田辺市に熊楠が後半生を過ごした旧邸と、隣接して南方熊楠顕彰館という博物館があり、そこに収められている生物標本、原稿や日記、蔵書を分析し、また展覧会の企画や講演会、ガイドブックの作成なども担当しています。
熊楠は、変形菌、キノコ、科学史、説話研究、国際比較民俗など多様な分野を扱ったひとです。19世紀後半から20世紀にかけて、人文科学と自然科学の分断が進むなかで、なぜそのような総合的な知の在り方が可能だったのかを、科学の制度化やネットワーク論から明らかにするのが目下の目標です。

南方熊楠研究

南方熊楠は幕末に生まれ、昭和前期まで活躍しました。アメリカ、イギリスでの生活が長く、現在でも世界最高峰の科学研究誌として知られる『ネイチャー』などに、400篇もの英文論文を発表しています。熊楠が国際的に活躍できた理由を明らかにするのが、わたしの研究の目的のひとつです。
とくに19世紀後半から、科学というものの在り方が激変し、世界中へ広がっていった過程に注目しています。科学は世界をひとつの物差しで測ろうとする「思想」であり、英語万能主義、グローバリズム、第一発見者以外に価値を認めない過当な競争主義などと結びついてきました。
そうしたなかで、熊楠は変形菌(粘菌)、キノコ、民俗学、説話研究、エコロジーなど、人文科学と自然科学を超えた研究を続けました。なおかつ、一生をアマチュアとして過ごしたひとでもあります。熊楠のような生き方は、現代でも参考になるのではないでしょうか。

熊楠の英文論文が掲載された『ネイチャー』

入門的な著作として、以下のようなものがあるので、関心のある方は手に取ってみて下さい。

  • 志村真幸『未完の天才 南方熊楠』講談社現代新書、2023年。
  • 志村真幸『熊楠と幽霊』集英社インターナショナル新書,2021年。

エコロジーと民俗学と動物

熊楠は柳田国男とともに日本の民俗学を創始したことで、「民俗学の父」と呼ばれています。明治期には、急速な都市化や生業の変化によって旧来の社会制度が壊れ、伝統文化が消滅の危機にありました。そうした風潮に熊楠は抵抗し、たとえば神社の破却や森林の伐採をやめさせたことで、「エコロジーの先駆者」と呼ばれています。
わたしは特に動物の絶滅/保護政策に関心をもっており、ニホンオオカミをテーマとして研究してきました。動物が愛護され、保護すべき対象と考えられるようになったのはいつで、またその理由は何だったのでしょうか。天然記念物という制度も、ここに関係してきます。
また、現実世界にいる動物たちの問題と、民俗学が動物の登場する昔話を扱うことの連関性についても探りつつあるところです。
たとえば、このような著作があります。

  • 志村真幸・渡辺洋子『絶滅したオオカミの物語-イギリス・アイルランド・日本』三弥井書店、2022年。
  • 志村真幸編著『動物たちの日本近代-ひとびとはその死と痛みにいかに向きあってきたのか』ナカニシヤ出版、2023年。
熊楠旧邸