山口 徹 教授

ジオアーケオロジー・歴史人類学・博物館人類学

南太平洋オセアニアや日本の八重山諸島をフィールドに、考古学と地球科学が協働するジオアーケオロジーの手法を用いて、島嶼世界の景観史のなかに人と自然の「絡み合い(entanglement)」を読み解いてきました。近年は、クック諸島プカプカ環礁の調査プロジェクトを進めてます。また、18世紀中頃-20世紀初頭の植民地期に収集されたオセアニア造形物の歴史人類学的・博物館人類学的研究にも挑戦しています。

プカプカ環礁プロジェクト再開!

2017年度から5年間の計画で「オセアニア環礁社会を支えるタロイモ栽培の天水田景観と気象災害のジオアーケオロジー」プロジェクトを開始しましたが、コロナ禍によって最後の2年間はフィールドワークを実施できませんでした。このたび、学術変革領域Aの計画研究班(A02)代表を務めることなり、そのプロジェクトの一環として2024年度からプカプカ環礁の現地調査を再開できることになりました。

クック諸島プカプカ環礁

プカプカは、サモアとタヒチのあいだに位置する北部クック諸島の環礁で、小さな州島に天水田の穴があちこちに開いています。島民の祖先たちが掘り下げた田面にウミドリの糞を混ぜ、ココヤシやパンダナスの葉を踏み込んで土を生み出し、タロイモを栽培してきた景観です。その開発史に考古学的手法でアプローチします。この環礁は、エルニーニョの年にときどき熱帯サイクロンに襲われてきました。天水田に海水が浸入し、大きな被害が発生することもあります。

クック諸島プカプカ環礁の天水田景観
クック諸島プカプカ環礁_発掘調査風景

先史を含む長期的な視点でその影響を解明するために地球科学の山野博哉さん(東京大学)と連携します。また、20世紀以降の熱帯サイクロン被害とプカプカ社会の再編を把握するために、文化人類学の深山直子さん(都立大学)・棚橋訓さん(お茶の水女子大)とも協働します。オセアニアの環礁社会は、地球温暖化による気象災害の激化にすでに直面し始めています。我々の学際研究の成果を、環礁居住のレジリエンス(回復戦略)に役立てていきたいと考えています。

プカプカ環礁の友人とともに

ウリ像に読み解く「ダブル・ビジョン」の歴史人類学

顎髭をたくわえた大顔、頭上の羽飾り、どっしり踏ん張る短脚。一木造りのその異形は、ニューギニアの北に位置するニューアイルランド島中部の葬送儀礼でかつて作られていた祖霊像「ウリ」に間違いありません。慶應大はそんなウリ像を3体所蔵しています。20世紀初頭、独領ニューギニアで貿易商を営んでいた小嶺磯吉氏のコレクションです。欧米では当時、オセアニアやアフリカの「未開」社会の造形物が高値で取引されていました。今でも、「部族芸術」の逸品としてウリ像は知られています。

ウリ

カプカプ

しかし、その形態をよく観察してみると、手斧やナイフといった鉄製の利器で製作されたものだと分かります。中には、西欧由来の青色顔料(レキット・ブルー)で彩色されたウリ像も存在します。考古学が得意とする形態観察の方法でウリ像を詳細に分析すれば、現地島民の目論見と収集者の目論見のせめぎ合い、言うなればダブルビジョン(double vision)を読み解けるかもしれません。慶應大所蔵のメラネシア資料を出発点にして、こうした造形物の歴史人類学的研究を進めています。

コルワル

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